アバディア・レトゥエルタ チャレンジ・ヒストリーNO.1

これまでに数々の偉業を成し遂げ、今やスペインを代表するワイナリーの一角として堂々たる地位を獲得したアバディア・レトゥエルタ。常に上を目指すには並々ならぬ努力や工夫が必ずあるはず・・スーパースパニッシュと名高いワイナリーの裏側に垣間見える真髄に3回にわたって迫ります。

No.1:「あえて規格外」自分らしさを求めて、規格にこだわらないワイン造り

ABADIA RETUERTA FOTO FERRAN NADEU

イベリア半島の中心に位置するスペインの首都マドリードから高速鉄道(AVE) で北へ1時間ほど行くと、カスティーリャ・イ・レオン州の州都バジャドリードという大都市がある。そこからさらに車で国道を30分東へ走らせると見えてくる村。サルドン・デ・ドゥエロ。今回のテーマとなるワイナリー「アバディア・レトゥエルタ」(以下アバディア)はこの地にある。

とてものどかな村で、松の大木や様々な草木、オリーブ畑などの自然風景と共に広がるぶどう畑がワイン大国スペインの存在を思い出させてくれる。付近にはぶどう畑を沿うように流れる大河があり、その流れは西のポルトガルを通り抜け最後は大西洋へと流れ出る。(全長897km) 

ドゥエロ川である。 

<ドゥエロ川のほとり>という意味で名付けられた原産地呼称が「リベラ・デル・ドゥエロ」。ワインの教科書を読んだことがある人なら覚えがあるかもしれない、リオハと並んでスペインを代表する赤ワインの銘醸地だ。 

ちなみにこのあたりの名物は仔羊(ラム肉)で、注文すると”天に召された”日付がご丁寧に仔羊に印字されて提供される。日本でもブランド牛に家系図が書いてあったりするのでまあそういうものか、と受け入れて有難く頂く。もちろんこのフレッシュな仔羊には地元リベラ・デル・ドゥエロの赤ワインを合わせると杯がすすむ。 

だが、その赤ワインの産地(原産地呼称)の話になると、アバディアはその原産地呼称から外れてしまう。 

いわゆる「地酒」という広域カテゴリーにあたるのが開業当初の格付け。 

これには諸説?なりそれぞれの言い分?なりがあるので真偽は定かではないが、あくまでアバディアいわく「当時は土壌解析などの技術が今ほど発達していないのだから外れてしまった理由はよくわからない。隣のワイナリー(ベガシシリア: 「スペインの至宝」と例えられるほどスペインワインを代表するワイナリー)を原産地呼称に入れたかっただけだろう」とのこと。実際1982年にこの地の原産地呼称が設立されたときに決められた認定地域ではアバディアとベガシシリア、この隣り合ったワイナリーの間に原産地呼称の境界線があったのだ。(※1) 

しかし、規格外の畑に格付けされてしまったアバディアは「リベラ・デル・ドゥエロ」というブランドにはこだわらなかった。自分たちの実力・ポテンシャルに自信があったからだ。 

「アバディア」とはスペイン語で「修道院」を意味し、もともとは東隣のベガシシリアがある地区と並んで2大修道院がこの一帯を統治していた。12世紀には修道士たちが辺り一帯のぶどう畑を耕しワインを造っていた歴史がある。 

その後その広大な敷地をまるごと一人の大地主が所有した時期を経て、1982年に東側をベガシシリア有するアルバレス家が所有。既にベガシシリアの名声は1929年バルセロナ万博での金賞受賞を機にヨーロッパでも格段にあがっており、リベラ・デル・ドゥエロを、そしてスペインを代表する巨星となっていた。 

一方で西側は種子を扱うサンド社が所有し、1988年にノバルティスグループの傘下となってからは先進技術を駆使しさらに質の高いワインを造るよう進化していく。 

オフィシャルでの初ヴィンテージが1996年とまだ歴史は浅いもののその実力は見事で、2005年にはワインで最も権威があるといわれる国際コンクールにて3冠達成という偉業を成し遂げる。(※2) 

世界的評論家からも大絶賛され、スーパースパニッシュワインとして世界から一躍脚光を浴びた、まさにシンデレラデビューを果たすこととなったのだ。 

「修道院」から由来するラベルに描かれた天使がまさにほほ笑んだ瞬間だった。

ちなみに、原産地呼称委員会から「リベラ・デル・ドゥエロ」の一員に入らないかという打診もあったそうだが断ったらしい。既に規格外であることをポジティブにとらえ、自由なコンセプトで、ただ質を高めることを一心にやってきたのだ。今さら必要はない。 

あえて規格外。なかなか勇気のいる英断だったのではないかと思う。 

が、出来上がったワインを飲むと納得感しかない。規格に認められていない品種もブレンド比率もアバディア独自のスタイル。規格にとらわれずに独自のアイデンティティを確立した結果なのだ。 

もし規格に属していたら生まれなかったワインのオンパレードで勝負しているアバディア。実力があればなんだっていいという思い切りのよさと心構え。気高い天使のワインラベルを見るとそんな経緯を思い出して自然と励まされる。 

異質こそアイデンティティ。と、なにか現代の訓示のようにも思えてくる。 

No.2「諦めなかった白ワイン」 へ続く 

※1 原産地呼称:ぶどう品種や土壌、栽培法、気候、収穫時期、製造法、貯蔵法などが相まってワインの個性が生まれるが、それぞれの個性を明確にし品質を保つため、また産地偽装の横行を防ぐ意味でも法整備が必要となった。そのため原産地呼称委員会が作成した規定・規格・地域の条件をクリアしなければ「産地」を名乗ることができない。また、リベラ・デル・ドゥエロで認定された黒ぶどう品種にはテンプラニーリョ、ガルナッチャ、マルベック、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローがあるが、赤ワインの場合はテンプラニーリョ(ティント・フィノ)を75%以上使用しなければならない。

※2 インターナショナル・ワイン・チャレンジ2005 で「セレクシオン・エスぺシアル2001」 が出品全606点のスペイン赤ワイン部門で最優秀賞、コンクール出品総数4,800点の全ての赤ワインの中から最優秀ワイン、さらに醸造責任者は年間最優秀醸造家にも選ばれる3冠を達成。

アバディア・レトゥエルタ Abadia Retuerta(ビノ・デ・パゴ)

ロバート・パーカー氏絶賛「今世紀最大の発見のひとつ」スーパースパニッシュワイン

アバディア・レトゥエルタは、リベラ・デル・ドゥエロに属すワイナリーですが、ブドウ畑の一部が原産地呼称(D.O.)に認定されていないサルドン・デ・ドゥエロ村にあるため、これまでの格付けはビノ・デ・ラ・ティエラ(地酒ワイン)になっていたため、D.O.の規制に縛られることなく、自由な発想でバラエティー豊かな商品を展開してきました。2022年5月には、これまでの功績が認められ、スペインワイン法で最高位に格付けされている「ビノ・デ・パゴ」に認定されました。
ロバート・パーカー氏からも90点以上の評価をされ、「今世紀最大の発見の一つ」とまで言わしめた実力を誇ります。また、畑はかの有名なボデガス・ベガ・シシリアに隣接しており、非常に恵まれた場所に位置し、上質なワインが生み出されています。

生産者ページ
https://milliontd.co.jp/product/abadia-retuerta/

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