アバディア・レトゥエルタ チャレンジ・ヒストリーNO.3

これまでに数々の偉業を成し遂げ、今やスペインを代表するワイナリーの一角として堂々たる地位を獲得したアバディア・レトゥエルタ。常に上を目指すには並々ならぬ努力や工夫が必ずあるはず・・スーパースパニッシュと名高いワイナリーの裏側に垣間見える真髄に3回にわたって迫ります。

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No.3:規格外の頂点へ!

赤ワインの銘醸地では「規格外」のアバディアが異彩を放つ存在であることはこれまでのストーリーでなんとなく理解してもらえただろうか。

今回はそんなアバディアが「規格外」を極めたという話でめでたく締め括りたい。

ワイン産地名を名乗るには原産地呼称委員会の定めるワイン法の規定を守らなければならないということはNO.1の記事で少し触れていたが、「産地」のくくりから飛び越え「ワイナリー産」として独自の名称を原産地として名乗ることができる原産地呼称の認定がある。現地語では「ビノ・デ・パゴ(Vino de Pago)」といわれ、日本語では「単一畑限定高級ワイン」と訳されている。個性的で高品質なワインの象徴でもあり、そのためには同じ産地でも他とは違う独自のテロワールを有していること、畑の中にワイナリーがあること(収穫後すぐにワイナリーへ新鮮な状態でぶどうを運ぶため)、ぶどうを他から買ってはいけない、など厳しい条件をクリアしなければならない。

現在スペインではわずか24軒のみの「ビノ・デ・パゴ」が認定されており、2022年5月にアバディアはめでたく23軒目のワイナリーとして承認された。ちなみにスペインにはワイナリーが約4,000軒もあることを考えると0.5%の割合だ。

 

認定されると○○産、◇◇村、というカテゴリー表記から独立し、「ビノ・デ・パゴ アバディア・レトゥエルタ」と自らの名前を産地名としてラベルに謳うことができる。

何年もの間アバディアからはこの認定を得るため「申請中だ」と聞いていたが、進捗を聞くたびに「まだ(認可が)おりない」の返答の繰り返し。半ば聞くのをあきらめた頃にようやくこのおめでたいニュースが入ってきた。

認定がおりるまで8年。随分長く時間がかかったものだ。なぜこんなに時間がかかるのか? これにはEUとスペインの両機関から認定が必要なのだ。さらにアバディアの場合は広大な畑の全区画(現在 193ha)が対象になったため通常より時間がかかったとのこと。24軒認められている他のワイナリーの中には、アバディアの面積の1/10ほど、そのワイナリーの一部の限定された区画にだけこの認定を取得しているところもあり、それでも数年はかかるという。

だが、白ワインを完成させるのに20年かける彼らだ。8年といっても大したことではないのかもしれない。ましてや、一部の区画だけでなく全部の区画に承認を得ようという彼らの意気込みも素晴らしい。そんな広大な敷地の中で規定に縛られることなく多品種のぶどうを栽培(現在25品種を栽培)してきた功績は、ついにこの認定、いわば「称号」を得るという偉業を成し遂げた。

とうとうアバディアのチャレンジは達成したのだ。

と思っていたのだが、当然まだまだ彼らのチャレンジは続く。

次は「オーガニック」認証が待っていた。

2018年に訪問した際にオーガニック認証は取得の予定がないのかと聞くと、自分たちは(あえて)オーガニックではなく、「ロジック(論理的)」な造りをすることにしている。」と説明を受けた。

「必要な時に必要な処置をする。例えば風邪をひいたときに薬を飲むだろう?同じことだよ。ただ、自然を尊重しているので出来るだけ化学製品には頼らないようにしているよ。」と。

アバディアの広大な700haの敷地には自然環境が豊かで、植物や動物の生態システムも隙なく整備されている。そうすることで病中病害対策にもなるのだ。

例えばてんとう虫やバッタのような小さな虫はぶどうを食べる昆虫を食べる。ぶどうの葉を食べる虫がいれば、その虫を食べる虫や鳥、そしてその鳥を餌にする鷲が飛んでくるという食物連鎖が行われているのだ。

とある畑の区画に雑草が多く生えていた。理由を訊くと、「先週は雨が降ってまだ畑がぬかるんでいたから生やしたんだ」という。広大な畑での土壌管理は見事でそういった措置は常日頃。そんな工夫をこらしつつなるべく自然を尊重してきたアバディアも、ついにはオーガニック認証を取得することになった。

実はこの国はオーガニックワイン大国である。スペインでは全ぶどう栽培面積の約10%(世界平均は約6%)がオーガニックで、これは世界の有機栽培面積のおよそ27%にあたる。

主にラマンチャ地方などスペイン中央部の暑く乾燥した標高の高い地理的条件に多く見ることができる。地理的、気候的にもオーガニック栽培に適した環境なのだ。

とはいえアバディアを含むこの界隈の銘醸地はオーガニック認証の生産者がひしめくような産地ではない。厳しい気候や寒暖差、春霜などの病害リスクが起こりやすいこの場所でのオーガニックは難しいと思われる。 だが、アバディアはやってみせた。赤ワインは長期熟成させてからリリースされるので、オーガニック認証のマークをつけたボトルが市場に出るのはまだ少し先だ。だが、白ワインは既に葉っぱのマークをつけて堂々と世に出ている。

こうしてアバディアは難しいことにもチャレンジしていく「パイオニア」のような存在であることを知らしめてくれる。そうして牽引することでリベラ・デル・ドゥエロ地域の、いや、スペイン全体の高品質ワインのレベルアップに貢献したいという彼らなりの「ロジック」な姿勢なのだ。

規格外の彼らの挑戦はきっとまだまだ続いていくだろう。今後の彼らの活動にますます目が離せない。

※ユーロリーフ・・有機農法についてEUの規定を遵守していることを保証する。
2010年から、EUで生産された有機農業からの食品について表示義務化。
ワインの原料となるぶどう樹には、直近の最低3年間合成化学薬品を使わない。代わりに銅や硫黄などの自然の殺虫剤を使う。銅と硫黄については既定の最大使用量を遵守する。今後認可されていく予定。 

アバディア・レトゥエルタ Abadia Retuerta(ビノ・デ・パゴ)

ロバート・パーカー氏絶賛「今世紀最大の発見のひとつ」スーパースパニッシュワイン

アバディア・レトゥエルタは、リベラ・デル・ドゥエロに属すワイナリーですが、ブドウ畑の一部が原産地呼称(D.O.)に認定されていないサルドン・デ・ドゥエロ村にあるため、これまでの格付けはビノ・デ・ラ・ティエラ(地酒ワイン)になっていたため、D.O.の規制に縛られることなく、自由な発想でバラエティー豊かな商品を展開してきました。2022年5月には、これまでの功績が認められ、スペインワイン法で最高位に格付けされている「ビノ・デ・パゴ」に認定されました。
ロバート・パーカー氏からも90点以上の評価をされ、「今世紀最大の発見の一つ」とまで言わしめた実力を誇ります。また、畑はかの有名なボデガス・ベガ・シシリアに隣接しており、非常に恵まれた場所に位置し、上質なワインが生み出されています。

生産者ページ
https://milliontd.co.jp/product/abadia-retuerta/

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