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これまでに数々の偉業を成し遂げ、今やスペインを代表するワイナリーの一角として堂々たる地位を獲得したアバディア・レトゥエルタ。常に上を目指すには並々ならぬ努力や工夫が必ずあるはず・・スーパースパニッシュと名高いワイナリーの裏側に垣間見える真髄に3回にわたって迫ります。
第一回はこちら
No.2:諦めなかった白ワイン
NO.1で紹介した通りのシンデレラストーリーで一躍有名になった「アバディア・レトゥエルタ」(以下アバディア)。
赤ワインの銘醸地として知られるこの地で、アバディアは白も造っているというから驚きだ。今でこそ赤ワインでは銘醸地として知られるが、「この場所でワインを造るなんてクレイジーだよ。」とこの地の某有名生産者はいつも言う。なんといっても大陸性気候の影響で気温差はとても厳しい。夏は暑く40度を超え、冬は氷点下18度を下回ることも。春には霜が降り、ぶどうの収量は激減する。2015年5月に訪問した際、最低気温が-0.5℃を記録した(!)。
余談だが、バジャドリードという州都を訪問するといつも寒い、と実感する。昼と夜の気温差も激しいのだ。例えば10月だと一日の気温差が20度近くにもなる。朝は2度かと思えば昼は20度近くまで気温があがるため、コートを着て出かけはするが正午には半袖で過ごせるほどにまでなる。ゆえに「重ね着」が基本。
昨年9月の訪問時バジャドリードの夜の気温は4度、猛暑だった東京の30度の外気に慣れていた身からすると寒くて仕方がない。しかしそんな気温下でもバジャドリードの地元民はテラスで陽気にワインやジントニックを飲んでいる・・。
スペインは暑いというイメージがあるかもしれないが内陸部は寒く気温差が激しいので、皆様も訪問する機会はお気をつけください・・。
さて、話を元に戻そう。前述の「クレイジーだ」と語った生産者は1980年代の頃だと、この場所でワインを造る孤高の存在だった。もちろん歴史的に見れば2000年以上のワイン造りの歴史こそあるものの、当時のワイナリー自体の数はとても少なく1980年代にはわずか12のワイナリーしかなかったのだ。しかし、例の「原産地呼称(NO.1参照)」ができてからは瞬く間にその数が増えていき、2000年には100以上、現在では268軒にも及ぶ一大産地になった。ただ、この地では赤ワインとロゼワインのみが認定されていたため白ワインの生産量は少ない。
その後2019年7月の規格変更によって、現在では認定された規格の中でなら白ワインも原産地呼称をつけて名乗ることができるようになった。(※)
しかし。アバディアは<規格にとらわれないワイン造り>がモットーである。初めから認定品種など気にもしない。
そもそもなぜ白を造ったのかというと、当初メルローという黒ぶどう品種の苗木を買って植えたら育ってきたのが白ぶどうのソーヴィニヨン・ブラン種だったという過ちが露見したのが発端だというのだからいかにもスペインらしい。かといってそれを引き抜かずにそのまま栽培、研究が積み重ねられ、20年の時を経て2010ヴィンテージのアバディア白ワインがついにリリースされたのだ。
20年もの間、よく諦めずに造り続けたものだと驚嘆する。
ちなみに「クレイジー」と言っていた前述の生産者はこの地で白ワインを造るのをあきらめ他国の白ワインを傘下に入れたくらいなのだ。この地で白ワインを造るなんて想像を絶する困難だったのではなかろうか。
そんな「アバディア・レトゥエルタ」の白ワインの名前は「ル・ドメーヌ」。
アバディアのワイナリーの敷地内にもつ5つ星ホテルの名前を冠している。このホテルも2010年に開業し今年15周年を迎えた。
こうした努力の結晶の白ワインの味はと言うと、これまた恐ろしくレベルの高い完成度に仕上がっているから素晴らしい。スペインの白ワインにこのような味のタイプは他にあるだろうか?と思わず考えたほどの第一印象を今でも鮮明に覚えている。一見ボルドーワインのようでいて、熟成するとブルゴーニュのような変化をまとってくる妖艶さも持ち合わせている。あのオバマ大統領のお抱えシェフがインスタグラムで絶賛すると世界中で爆発的な人気に。毎年リリースするとすぐ全世界で完売になる。日本にも毎年200本前後が入荷している。逆にいうと日本に200本ほどしかない、希少かつ貴重な白ワインなのだ。
ワインだけでも満足度が高くもちろん美味しいのだが、料理とあわせても幅広く楽しめる。
例えば初夏には鱧や鮎と、秋にはきのことバターソースで、寒い時期はクリームコロッケやシチューなど、ワインの温度は冷やしすぎず高め、大ぶりのグラスで一年中、四季折々をアバディアの白と旬の食材で楽しみたい。
また、スペインの定番のつまみといえば生ハム。都内のあるスペインレストランで考案されたオリジナルピンチョス、それは生ハム(ハモン・イベリコ)にわさびを少し、それを海苔で巻く和風スタイル。これをアバディアに教えると気に入ってくれたようで、彼の知人が働くマドリードのレストランに勤めるコルタド―ル(生ハム切り職人)にも教えると、その彼もまた喜んでくれてお店のメニューに取り入れられたということも。
生ハムとこの白ワインを合わせるといつもコルタド―ルの彼の素敵な笑顔を思い出す。
NO.3 「規格外の頂点へ」 に続く~
※2019年7月、新規格により白ワインも認められた。品種はアルビーリョほか、多品種が今後認可されていく予定。
ホテル「ル・ドメーヌ」 https://www.abadia-retuerta.com/hotel-spa-valladolid-ribera-del-duero
ホテルについてのコラム https://www.milliontd.com/2022/06/02/aba/
アバディア・レトゥエルタ Abadia Retuerta(ビノ・デ・パゴ)
ロバート・パーカー氏絶賛「今世紀最大の発見のひとつ」スーパースパニッシュワイン
アバディア・レトゥエルタは、リベラ・デル・ドゥエロに属すワイナリーですが、ブドウ畑の一部が原産地呼称(D.O.)に認定されていないサルドン・デ・ドゥエロ村にあるため、これまでの格付けはビノ・デ・ラ・ティエラ(地酒ワイン)になっていたため、D.O.の規制に縛られることなく、自由な発想でバラエティー豊かな商品を展開してきました。2022年5月には、これまでの功績が認められ、スペインワイン法で最高位に格付けされている「ビノ・デ・パゴ」に認定されました。
ロバート・パーカー氏からも90点以上の評価をされ、「今世紀最大の発見の一つ」とまで言わしめた実力を誇ります。また、畑はかの有名なボデガス・ベガ・シシリアに隣接しており、非常に恵まれた場所に位置し、上質なワインが生み出されています。